千と万/数としての認識
千も万も数を表す文字で、万は千の10倍だと誰でも知っている。
日本銀行券を見てふと疑問に思った。日本銀行は普通日銀と省略形で呼ばれるが、札の裏面にはNIPPONN GINKO と印刷されているので、正式には「にっぽんぎんこう」と呼ぶのだろう。日本○○という固有名詞は極めて多いが、「にっぽん」より「にほん」と読む例のほうが多いような気がする。
有名なのは橋の名前だ。東京にある日本橋は「にほんばし」大阪のは「にっぽんばし」と読まれている。
福沢諭吉の肖像画が表面に描かれている札には壱万円、裏面には10000YENと記されているが、野口英世の肖像画の札は千円、裏面に1000YENと印刷されている。
福沢の壱万円に対し、野口のはなぜ壱千円ではなく、千円なのか不思議に思った。銀行の窓口で聞いてみたが、誰も分からず、差異の事実さえ認識していない。
日銀本店に質問すれば理由が判明するかもしれないが、自分で調べ考えることにした。
硬貨は日本国と刻印されている面を表と定義すると、政府発行の1円硬貨の表面には一円、裏面には1と表示されている。10円は表面に十円、裏面に10、100円は百円と100だ。壱拾円や壱百円とは表示されてない。
硬貨にはこのほかに5円・50円・500円があるが、よく調べると50円硬貨の金額表示面に矛盾があり、実は表・裏の定義はないことが判明した。
では、数をどのように数えるか考えてみよう。
このコラム〓「数を数える」で示したが、人が最初に数を覚えるのは、入浴時「100数えるまで湯に漬かっていなさい」と親に言われ、一つ、二つ、三つと百まで数えたことを懐かしく思い出すことがあるだろう。
私は昭和15(1940)年、当時の呼称紀元(皇紀)二千六百年にちなんで2600まで声を出して正式に数えたことがある。
人は千までは数えた経験があっても、万は計算上知っているだけで、実際に数えたことがないだろう。
つまり千は数として認識しているが、万は数というより、メートル、キログラムのように単位という感じで受けとめているのではなかろうか。だから、千、一万と言うのだろう。
英語でもワン・テン・ハンドレッド・サウザンドと数え、万はテンサウザンド(千の十倍)という。サウザンド(千)の上は千の千倍ミリオンである。独立した数の名称はサウザンド(千)までで、万はない。
すなわち、欧米人も数は千までで、万は単位のような感覚なのだろう。
日銀に尋ねても、千円、一万円の差は人びとの言うとおりに表示したと解答するにとどまるのではなかろうか。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)