こまぬく/国語の感覚
「こまぬく」という言葉は知らないという人がいる。しかし、「こまねく」は聞いたような気がする。「手をこまねく」は知っている。
こんな返事が平均的な日本人の国語感覚ではなかろうか。こまぬくは拱くと書く。
広辞苑は「こまぬく」で立項し、左右の手を胸の前で組み合わせる。腕を組む。転じて、何もしないで見ている。傍観する。「腕をこまぬく」「手をこまぬく」近年、音変化した「こまねく」が多く使われると解説している。
こまねく[拱く]の項にはコマヌクの訛。とある。
漢語では拱手と記し、「コウシュ」と読む人が多いが、本来は「キョウシュ」で、「コウシュ」は慣用読みだ。拱手傍観と四文字熟語で用いられることが多い。
政治家が日米安全保障条約について、「同盟国が敵国から攻撃されているのに、わが国が拱手傍観していてもよいのか」のように演説することがある。拱手を「コウシュ」と読んでいて、「キョウシュ」と読む人は少ない。
マスコミの表示も面白い。朝日新聞は「こまぬく」と書くが、読売新聞は「こまねく」と表現する。新聞は常用漢字の範囲内で記事を記すが、週刊誌は表外漢字も使用している。
従って「こまぬく」も「こまねく」も「拱く」と書く。何と読むかは読者の自由だ。
日常語では右の肩関節から末端を右手ということが多いが、医学用語では右上肢といい、手とは手首(手関節)より末梢部分を指す。肘関節を境として上腕と前腕に分かれる。
拱手を広辞苑では①中国で敬礼の一つ。両手を組み合わせて胸元で上下すること。②手を組んで何もせずにいること。と説明しているが、②の手は腕の意味で、腕組みしてのことだろう。
新明解国語辞典の「こまぬく(拱く)」は、(もと、敬礼のために、左右の手の指を胸の前で組み合わせる意)腕を組む(口語形では「こまねく」とも。とより具体的に説明され、「こまねく」の立項はない。
拱手するの項は[もと、正音キョウシュの誤読に基づく]腕組みしたまま何もしないこと。と誤読と断じている。広辞苑はコウシュは慣用読みとしている。
学研漢和大辞典の拱手(キョウシュ)の説明には驚いた。①両手を胸の前でくみあわせてする敬礼。吉事には男は左、女は右を上にし、凶事にはその逆にする。②何もしないでいること。
以上を総括すると、こまねく、拱手(コウシュ)が多数派らしいが、私は「こまねく」は招き猫を連想してしまう。今回辞書を調べているうちに、コウシュが慣用読みだと初めて知った。