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桐生タイムスより

集団的自衛権/疑念抱かせぬ努力を

 憲法改正も視野に入れて、集団的自衛権の議論が盛んだ。全国紙の社説や解説・テレビの報道を見ても、完全には理解できず、合点がいかない。ぼけ始めたのかと思って、何度も読み返すが、何が分からないのか、それが分からず、落胆する。
 集団的自衛権を一語ずつ分解して、本来の意味を探ってみたら、「的」が不明の原因だと判明した。
 「的」は「の」や「として」「のような」の意味で名詞の後につくが、(中国語の「的」(助詞「の」にあたる)をそのまま音読した語)名詞や句に添えて、その性質を帯びる、その状態をなす意を表す。という広辞苑の解説を読んで、やっと少しわかってきた。
 集団安全保障(collective security)には「的」がないのになぜ自衛権では集団的自衛権(right of collective self-defense)と「的」が加えられたのだろう。英語には両方とも「的」に相当する言葉は挿入されていない。
 国連憲章第51条を日本語に翻訳する際、知恵物の官僚が目立たぬようにこっそりと「的」を挿入したのだろうか?
 集団自衛権と集団的自衛権とでは、どんな差があるのだろう。的は「のような」の意味だから拡大解釈して、自衛のためと称して、すべて集団的自衛権の範囲だと、時の政権が解釈し実行するのではなかろうか。
 最近は奇妙な日本語が流行しているが、その一つに「私的には」がある。「私はこう思います」と言わないで、意図をぼかし、相手にへつらうためか「私的には」という若者がいる。
 わが国最大の国語辞典である日本国語大辞典の「的」の項には次のように説明されている。
 中国の俗語で、「村的(いなか者)」「唱的(芸者)」「控馬的(馬子)」などの用法があり、これをまねたものという。江戸末期から明治にかけての俗語としてもちいられ、明治期には、書生ことばや新聞の雑報欄の用語として使われ、香具師(やし)や盗人の隠語として、後にも引き継がれる。
 中国語の助辞の用法にならって、明治初期の翻訳文のなかで、英語の―ticなどの形容詞的な語の訳語として2字の漢語につけて用いられだしてから、学術的な文章などに多く用いられる。そのような性質をもったものの意を添える。
 要約すると、明治期には「的」は野卑な言葉で、法令用語や総理大臣が国会で答弁する用語ではなかったらしい。
 集団自衛権ではなく、なぜ集団的自衛権なのか、的を挿入した理由を、国会で徹底的に議論し、国民に疑念を抱かせぬよう、政治家もマスコミも努力してもらいたい。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

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