自然数と起算日/年齢計算の矛盾
自然界に存在するものを1・2・3・4・・・と数える数が自然数の原義だろう。正の整数と一致する。多くの国語辞典もそのように説明している。
ところが、広辞苑には集合論等では0を自然数に含めることもあると解説されている。すなわち広辞苑では自然数とは①正の整数②正の整数と0との総称の2種類という。
負の整数と0はインドに起源があるらしいが、0の発見は数学だけではなく、哲学・宗教とも関係し、0の本質は分かったような、分からないような、禅問答のように微妙だ。
「テーブルにリンゴが2個あります。お母さんと私で1個ずつ食べました。残りはいくつですか」と幼児に問いかけると、「残りはありません」との答えが返ってくる。まれに「残りは0個です」と答える子がいるかもしれないが、「残りのリンゴは0個あります」と答える子は多分いないだろう。
0を無と考えるのはやさしいが、0個存在すると実感するのは容易ではない。
数を数えるとき、昔は1・2・3・・・と数えるのが常識だったが、現在では0・1・2・3・・・と数える人もいる。数の数え方は法律で決まっているのだろうか。
民法第6章には期間の計算として140条には以下のように規定されている。
日・週・月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は算入しない。ただしその期間が午前零時から始まるときは、この限りではない。
すなわち翌日起算の原則である。起算とはかぞえはじめることで、起算日とは数えはじめる第一日のことだ。明治に公布された民法だから、0・1・2・・・と数えるのではなく、1・2・3・・・と本来の自然数によって数える。
こどもが生まれた日に銀行で1年定期を契約すると、民法143条の②週・月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は最後の週・月又は年においてその起算日の応答する日の前日に満了するの規定によって誕生日に満期となる。
ところが、年齢計算ニ関スル法律では翌日起算ではなく、「年齢ハ出生ノ日ヨリ之ヲ起算ス」の規定により数えるので、誕生日の前日に加齢するという奇妙な結果になっている。
戦後は昔の数え年ではなく、満年齢で表現するようになったのに、日数計算を満ではなく数えのまま放置したので、常識に反して誕生日の前日に加齢すると解釈され運用されている。公職選挙法で20歳の誕生日の前日に有権者になったり、学校教育法で4月1日までが早生まれは前日加齢説の結果だ。
この矛盾はいつ解消されるのだろうか。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)