善意と悪意/法律語の意味を知る
ある言葉を別の意味に解釈していると、二人の会話は成立しない。よく言われる例に「結構」がある。
商品の売り込み電話に「結構です」と断ったつもりが、後日商品が届き、承諾したではないかと代金を請求された話を聞く。
結構は結構な品や結構な作品のように、褒め言葉にも使うが、もう結構ですのように、辞退や拒絶の意味にも用いられる。不要なら「要りません」と断るのがよい。
意思と意志は読み方が同じで、意味も似ているので混同されやすい。届け出の窓口で「あなたの意思ですか」と尋ねられるのは「家族ではなく、あなた自身の考えですか」の意味だ。意思表示や意思の疎通などは通常意思を用いる。
これに対して、意志薄弱や意志の強い人などは意志と記す。心理学や学校では意志を用いることが多いが、法律では意思を使うことが多い。
切手の消印は普通「ケシイン」と言うが、郵便局では「ショウイン」と称している。大学病院は、私立は付属、国立は附属と書くことが多い。
処分は基準に照らして処理することの意味だが、日常用語としては「退学処分」「不用品を処分」のように、悪い意味で使われることが多い。法律用語としては行政権や司法権の作用の発動の事で、悪い意味だけではない。
理化学研究所の小保方さんのSTAP細胞の論文問題で、理研は「悪意のねつ造」と発表した。ねつ造は捏造と書き、正式には「テツゾウ」と読む。ネツゾウは慣用読みで、でっち上げのことだ。
悪意は日常語では「わる気」「わざと悪くとった意味」で、悪意のねつ造と言われると、誰でも気分を害し、反論する。
ところが、法律語としての悪意は道徳上の善悪の悪とは、全く異なり「知っていながら」の意味である。悪意の反対は善意だが、これも法律用語としては「知らないで」の意味で、道徳上の善意とは無関係だ。
「善意の第三者」という表現は善人の第三者という意味ではなく、法律上は当事者間の特定の事情を知らない第三者という意味である。
法律家は法律語としての善意・悪意を当然知っているだろうが、私はこの年になるまで、常識的な日常語としての善意と悪意しか知らなかった。
今回のSTAP細胞の論文問題の報道で、善意・悪意の意味を初めて知った。小保方さんも「悪意のねつ造」の意味を知らなかったのだろう。それにしても彼女は理研製の新製品のキャンペーンガールとして利用されたのではなかろうか。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)