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桐生タイムスより

火の車/むかし台所いま家計

 消費税率が5%から3㌽上昇し、8%になって家計は火の車だとの嘆きの声が聞かれる。戦後の混乱で生活が苦しかったころは、台所は火の車と表現していたが、生活費に占める食費の割合を示すエンゲル係数が使用されなくなった頃に、台所から家計に変わった。
 昔は物価の標準は米価だったが、今では米価よりガソリンの価格に人々の関心がある。
 現在の台所の熱源はガスか電気だが、昔は竈に薪をくべ火を燃やして米飯を炊いた。火の車は、火急や火事を連想するが、家計が火の車とは何にたとえたのかと改めて聞かれると、答えに窮する。金策に走り回り、金が家にとどまらず、すぐ出て行くのだろうか。
 古いことわざだから、車は四輪の自家用車ではないことはすぐに分かるが、では大八車だろうか、牛車だろうかと想像しても腑に落ちない。
 広辞苑には次のように説明されている。  
 ひのくるま[火の車]①[仏](「火車」の訓読)地獄にあるといわれる火の燃えている車。獄卒が罪ある死者をのせて地獄に送るという。②生計のきわめて苦しいこと。「家計は━だ」
 他の辞書も広辞苑と同様の解説だ。そこで[火車]を調べた。
 ①[仏]火がもえている車。生前に悪事をした亡者をのせて地獄に運ぶという。ひのくるま。②火車婆の略。③中国で汽車。火輪車。④中国の古い戦具で火攻めに使う車。⑤葬送の時ににわかに雨が起こって棺を吹き飛ばすこと。⑥花車に同じ。遊女を監督・指揮する女。遣手。香車・火車とも書く。
 かしゃばば[火車婆](来世は火車に乗せられて地獄におちるからという)悪心の老婆。おにばば。
 どの辞書にも、火の車は仏教用語の火車の訓読みとの説明なので、中村元著の図説佛教語大辞典を調べたが、掲載されていない。
 仏教はインドで生まれ、中国・朝鮮半島を経て日本に伝わったが、火車は地獄・極楽を教える日本で生まれた考えではなかろうか。
 現在は、すべて火葬後に埋葬されるから、火車で迎えに来ても平気だと思う人もいるかもしれないが、行き先が地獄では御免こうむりたいという人が多いのだろう。
 花車は①遊女を監督・指揮する女。遣手。②茶屋・料理屋の女主人の意でもある。
 消費増税で、国民の家計を火の車にした政治家の葬儀の時、迎えに行くのは地獄に送る火の車の火車なのか、華やかな衣装を着た料理屋の女主人なのか、どちらだろう。
 要するに、火の車とは火車で地獄に送られるように、家計がきわめて苦しいことのようだ。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

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