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桐生タイムスより

清音と濁音/ザンゲとサンゲ

 五十音図をカキクケコのように澄んで読むのを清音、ガギグゲゴのように発音するのを濁音、パピプペポを半濁音という。
 英語からの外来語の発音は原語と逆転しているものが多い。定期券のパス、湯船のバスは英語どおりの発音だが、オリンピックの金メダルを金メタルと言う人がいる。メタル metalは金属でギリシャ語由来、メダル medalは賞碑の意味の英語でラテン語由来の言葉だ。
 野球のバントをバンドという人が多い。また、滑らかの英語はsmoothでスムーズと発音するが、日本では普通スムースと清音で言っている。スムーズと原音で発音すると気障に聞こえる。
 日本語では天下をテンカともテンガとも読む。時代劇の台詞はテンガが多いようだ。釈迦が生後すぐ発したという天上天下唯我独尊の天下はテンゲと読む。天界・下界だからゲだ。ただし、お釈迦さまが生まれながらに、日本語を知っていたわけではない。念のため。
 トンネルの日本語は隧道だ。辞書はスイドウで立項しているが、ズイドウともいうと注をつけている。トンネルを道路の関係者はスイドウといい、鉄道員はズイドウと濁音で読んでいるようだ。隧道には墓への地下道という意味もある。
 余談だが、野球用語のトンネルは日本での俗語で、アメリカでは通用しない。また、仕事や物品を帳簿上トンネルのように通過させるだけで、他へ回して利益をあげる会社をトンネル会社ということがあるが、これも和製英語で、本来の英語ではダミー・カンパニーdummycompanyという。
 清音と濁音とでは、全く別の言葉もある。「世の中は澄むと濁るで大違い。ハケに毛があり、ハゲに毛がなし」の狂歌がある。「ケガの手当てをゲカでする」という句もある。
 さて、懺悔は元来仏教用語で、サンゲと読んだ。懺の呉音はセン、漢音はサンで、ザンは慣用音だ。過去のあやまちをくい改める意で懺は梵語ksamaの音訳で、悔はその意訳とのことだ。
 広辞苑の説明が興味深いので引用する。
 ザンギサンゲ(慚愧懺悔)と熟して用いることが多かったために、ザンギの影響で濁音化して江戸時代にザンゲとなったかという。
 ざんき(慙愧・慚愧)の項には(中世にはザンギ)と注がついている。
 キリスト教のザンゲは別に立項している。
 日本には仏教徒がキリスト教徒よりはるかに多いと思うが、懺悔をサンゲと読む人よりザンゲと読む人のほうが多いのは、ルソーの懺悔録の影響だろうか。
 私は7回目の年男になるまで、懺悔の読み方を知らなかったことを、神にザンゲし、仏にサンゲする。

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