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桐生タイムスより

ときめき/前向き志向に

若者と老人は医学的な体力差だけではなく、心理的にも社会的にも大きな差がある。
 若者は将来を想像し、老人は過去を振り返る。人は年月の長い方を見るらしい。若者は頂上を目指して登山するが、老人は足元に注意して下山する。
 80歳でチョモランマ(エベレスト)登頂に成功し、世界最高齢の記録を作った三浦雄一郎さんは、ヘリコプターの助けを借りて下山したとのことだ。
 ノーベル賞の受賞者は年配者が多いが、受賞の源となった研究は若い時のひらめきによる。成果が学界で認められ、授賞選考委員会でも承認されるためには長い年月が必要だ。
 若い時にはときめくことがあるが、老境に入るとときめきは消失する。
 遠足の前日わくわくして眠れない感じ、入学試験の合格発表時のときめき、初デート・新婚旅行のときめき、すべては遠い過去の思い出だ。
 しかし、老人も過去を振り返るだけでは、ますます老けてしまう。5年先・10年先の未来を考えて、前向きに生きよう。
 十四口という言葉を初めて聞いた。中国の二十四孝の話なら知っているが、十四口とはなんだろうと尋ねたら、「プラスしこう」と読み、前向き志向とのことだ。
 「ときめき」「ひらめき」と似た言葉に「ひよめき」がある。新生児の頭頂部の大泉門が閉じず、脈拍につれてピクピクと搏動することだ。「おどりこ」ともいうが、現在では死語と化し、文章でも会話でも見聞したことがない。私も辞書で知っているにすぎない。
 ぴよぴよと鳴くひよこが連想される美しい和語だ。
 目の病気の「そこひ」は誰でも知っているが、「うわひ」は「ひよめき」と同様、死語となり、眼科医でさえ知らない人が多い。底翳に対し上翳と書く。前者は眼球内や網膜の疾病で視力障害を伴うが、後者は視力が低下する角膜の病気だ。
 古語の上・下は天と地のような位置関係ではなく、表面が上で、上に隠れて見えないところが下である。上衣・下衣や天井の上塗り・下塗りを考えるとよく分かる。
 「彼は上辺は温厚だが、どんな下心を持っているか分からない」のような言葉が、上・下の本来の意味をよく表している。
 「ひよめき」「うわひ」のような美しい和語が死語になったのは残念だ。
 ともかく、高齢者も「ひらめき」を尊重し、「ときめき」を感じて、前向き志向に生きてゆこう。

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