未決・既決/まだ直っていなかった
先日、本紙に市長室で市長が市民2人と会談している大きな写真が掲載された。市長の後ろの机には箱があり、末決・既決と記されている。
この写真を見て数年前のことを思い出した。市役所の課長席に新しい箱があり、末決・既決と記されている。私は課長に末決は何と読むのかと尋ねた。課長は不思議そうな顔をして、「ミケツ」ですと答えた。私はミケツなら未決だろう。末決ではマツケツだと言い、未決の意味を解説した。
未決はまだ決めてないことであるが、刑事裁判でまだ判決が下りず、有罪か無罪か決まっていない状態を示す言葉である。「市の幹部は全員が容疑者(被疑者)か?」と問いかけた。桐生市役所では未決と称しているのかもしれないが、本来なら未決裁と表示すべきだろう。
課長は「箱は作りかえたばかりです。その前に教えてくれればよかったのに」と真顔で答えた。
手遅れという落語がある。屋根から落ちて大けがをした人に「手遅れだ。もっと早く受診しろ」と医者が言うと、けが人は「今落ちたばかりです」と答えた。医者は「落ちる前にかかりに来い」と指示した。
私はこの話をした後に、「あなたは吉本のお笑い芸人になれば成功するでしょう」と告げた。
今になって冷静に考えると、課長は「当分書き直すつもりはありません」の意思表示だったのかもしれない。
話は変わるが、JRが国鉄だった頃、東京・上野駅の表示板に「上・信越線」と記されていた。私はこの表現は不適切だと思い、上野駅長に手紙を書いた。
上・信越線は上田・下田の2人を上・下田と書くのと同じで、越が共通でも省略してはならない。関東地方の人には違和感がないかもしれないが、上野駅には全国から乗客が集まる。上線という路線があると誤解する人もいるだろう。
私の指摘を受けた上野駅長は、すぐに上越・信越線と書き換えてくれた。私は現場の書き換えた表示板を確認して駅長に礼状を書いた。
この話は朝日新聞の依頼により群馬版に書いた最初の随筆で、後年「上州やぶにらみ」として出版された思い出の多い作品である。
これが契機で随筆を書くのが楽しみとなり、このコラム「一隅の管見」も4年目になる。
国鉄は誤りをすぐ訂正したが、桐生市は誤りを放置し、天下に恥をさらけ出している。
過ちては則ち改むるに憚ること勿れ
過って改めざる是を過ちという
(論語)