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桐生タイムスより

嚥下/読み方いろいろ

 嚥下とは飲食物を飲み込むことだが、一般名詞ではエンカと読むが、医学用語ではエンゲと読む。
 広辞苑はエンゲで立項し、医学的な解説をしていて、エンカはエンゲを見よと指示している。しかし、他の辞書ではエンカで立項し、エンゲを見よとしていて、エンゲは立項されていないものが多い。
 常用漢字の音訓表では、下の音はカ・ゲ、訓はした・しも・もと・さげる・さがる・くだる・くだす・くださる・おろす・おりる。と10種の読み方を列挙している。
 下のつく熟語は、下方、県下のようにカと読む語が多いが、下車、上下のようにゲと読むものもある。
 上下は普通ジョウゲと読むが、ショウカと発音する読み方もある。意味はほぼ同様だが、やりとりすることの意の「議論を上下する」という場合はショウカと読む。また治者と人民の意の上下もショウカだ。
 これに対し背広の上下や東海道を上下する例ではジョウゲで、ジョウゲとショウカは言葉により決まっているようだ。
 天下は上州の嬶天下のようにテンカと読むことが多いが、釈迦が生誕直後に言ったとされる「天上天下唯我独尊」はテンゲと読む。
 下の音でゲは呉音、カは漢音だ。呉音が中国から日本に伝わったのは漢音より古く、僧侶が用いた。現在でも仏教用語は呉音で読むものが多い。
 漢音は呉音よりやや遅れて遣唐使や留学生などによって伝えられた。漢字や漢文のように呉より漢のほうが身近に感じられるが、呉服や呉越同舟のように、呉も捨てがたい。
 銀行のように行をコウと読むのは漢音、修行のようにギョウと読むのは呉音だ。
 嚥下の嚥は口偏に燕と書くが、ツバメとは無関係だ。夏目漱石は著書で当て字を多用しているが、「吾輩ハ猫デアル」で嚥下にエンカと振り仮名している。
 漱石には振り仮名つきの小説が多い。未亡人は現在では誰でもミボウジンと読むが、漱石・森鴎外・福澤諭吉らはビボウジンと読んでいた。明治時代はビボウジンが一般的な読み方だったらしい。
 ちなみに、常用漢字の音訓表では、未は音のミだけで、ビはなく、イマダの訓もない。
 一般人と専門家とで読み方が異なる用語は珍しくない。
 遺言は世間ではユイゴンと読むが、法律家同士ではイゴンだ。
 出生は一般的にはシュッセイだが、戸籍係はシュッショウと言う。
 切手やはがきに押す消印を人々はケシインと読んでいるが、郵便局ではショウインと読む。
 日付も普通はヒヅケだが、専門家はニップと読む人が多い。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)
 
 

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