エコノミークラス症候群/病名の違和感 | 桐生市医師会
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桐生タイムスより

エコノミークラス症候群/病名の違和感

 熊本地震の関連死として「エコノミークラス症候群」という病名がマスコミで報道されるが、この病名には違和感がありなじめない。
 航空機の座席のエコノミークラスから名付けられたものだろう。この症状はファーストクラスの乗客にも、列車やバスなどの乗客にも発生することがある。
 長時間座席に座り続けると、下肢の血流が悪くなって血栓が生じ、肺動脈に塞栓して死に至ることもある。
 医学の病名としては肺塞栓症や肺動脈血栓塞栓症というべきだ。この疾病で死亡した患者の死亡診断書にエコノミークラス症候群と記す医師はいないだろう。
 飛行機の座席のファーストクラス・ビジネスクラス・エコノミークラスの3分類は、昔の国鉄の1等席・2等席・3等席の3分類と同じだ。従ってエコノミークラス症候群は意訳すると3等席症候群となり、差別表現だ。
 マスコミは差別用語を極端に回避し、めくら判、つんぼ桟敷などの慣用句も排除する。
 ロングフライト・シンドローム(長時間搭乗症候群)という表現もあるし、最近では車中泊症候群という新しい用語もあるのに、なぜエコノミークラス症候群を使い続けているのだろう。
 病気の社会的背景と医学とを勘案すると、ロングフライト血栓症や車中泊血栓症などがよいのではなかろうか。
 医学の正式な病名はむずかしくて、普通の市民には理解しがたいものがある。また、人権をしんがいするとして、社会的に使われる用語が病名として用いられることもある。
 痴呆症は差別語だとして、現在では認知症といわれるが、認知障害症ではないだろうか。精神科領域の病名が人権侵害だとして改名されたものが多い。
 若い時から障害が隠れていても、症状が出現するのは成人になってからだとして、かつて成人病といわれていた病気がある。糖尿病・高血圧症・心臓病・がんなどである。これらの疾病は長い間の生活習慣が原因だとして、現在では生活習慣病といわれる。生活習慣病は正式の医学用語ではないので、医学書にはこの病名は記されていないが、マスコミでは広く普及し定着している。
 しかし、これらの疾病は生活習慣と関連があるものが多いが、全部が生活習慣が原因というわけではない。
 糖尿病の多くは、長い間の食習慣が原因で発症するが、これはⅡ型の糖尿病だ。少年期に発症するⅠ型糖尿病は、食習慣とは無関係に遺伝によるもので、患者自身に責任はない。生活習慣病といえば、いかにも患者の生活習慣が原因のように受け取られ、無実の罪をかぶせられた被害者になる。昔は若年性糖尿病といった。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)
 

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