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桐生タイムスより

五月晴れ/梅雨のころ

 空は青く澄み渡り、鯉のぼりが高く掲揚されるこどもの日の頃になると、「目に青葉山ほととぎす初かつお」の句が新聞に登場することがある。
 しかし、山口素堂の原句は「目には青葉山時鳥初松魚」だ。目には青葉と字余りに詠んでいる。時鳥をほととぎす、松魚をかつおと読むのは説明されないかぎりむずかしい。季語を三つも並べた常識外れの俳句だ。
 5月5日のこどもの日は「こどもの人格を重んじ、こどもの幸福をはかるとともに、母に感謝する」と国民の祝日に関する法律に定められている。父母や両親ではなく、母に感謝だ。戦争を始めたのは男だとする制定当時の国民感情を反映したのだろう。
 こどもは戦前は子供と書かれていたが、供が人偏に共で、共が目下を意味して、親の私物のような印象を与え、人格を重んじと対立するような感じがするので、こどもと平仮名書きにしたらしい。現在では子どもと表記されることが多い。
 広辞苑は3版までは「子供の日」だったが、平成3(1991)年発行の4版で「こどもの日」と改められた。
 五月晴れといえば、晴れわたった穏やかな空を連想する人が多いだろう。しかし元の意味はさみだれの晴れ間、梅雨の晴れ間だ。
 太陰暦は現在の太陽暦より1月余り遅れ、五月をさつきと読み、陽暦の6月梅雨の頃に相当するから、五月雨の晴れ間である。
 松尾芭蕉の句「五月雨をあつめて早し最上川」は梅雨の長雨を詠んでいる。芭蕉と素堂は親友だったらしい。さみだれのサはサツキのサで、ミダレは水垂の意とのことだ。
 陽暦の1月から12月を、陰暦では次のように表現する。
 睦月・如月・弥生・卯月・五月(皐月)・水無月・文月・葉月・長月・神無月・霜月・師走
 現在では、12月の師走以外はほとんど使用されないが、新暦の12月も師走といわれることがある。
 競馬の3冠レース(皐月賞・日本ダービー・菊花賞)の最初のレース皐月賞はなぜか4月に行われる。さつきは4月だったり、5月だったり、6月だったりして、ややこしい。
 さつきのサは神稲で稲を植える月の意だ。「江戸っ子は五月の鯉の吹き流し」という諺は、江戸っ子はことばづかいは荒っぽいが、気持ちはさっぱりしていて、物事にはこだわらないということだ。また江戸っ子は口先ばかりで、胆力に乏しい意にもいう。吹き流しは腹が空洞で何もないからだ。「五月の鯉でくちばかり」ともいう。
 「五月坊主に蠅たかる」は、5月は農繁期のため法事を行う家がなく、僧侶が暇なことを示す諺だ。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

 

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