家族/定義は変わる
高齢化した本紙の読者に最もよく読まれている記事は「明暗だより」だろう。その中に「家族葬」という言葉が使われている。10年ほど前は「密葬」と記されていた。密葬とは会社の社長や有名人の葬儀で本式の密葬「本葬」の前に、近親者だけで行う葬式のことである。
つまり後日本葬が行われることが前提で、それで終わる葬儀は密葬ではない。近親者だけで内々で行う葬式を行う場合、それを何というか適切な言葉がなかった。
誰が考え出したのかは知らないが、数年前から本紙では「家族葬」と表記されるようになった。しかし全国的には定着せず、朝日新聞では「葬儀は近親者で営まれた」のように記されている。
結婚式や披露宴は招待された者だけが参加するが葬式では誰でも参列できるのが普通だ。家族葬の家族はどの範囲までだろうと疑問に思った。
家族は民法で定義されているのだろうと想像して六法全書を調べたが、婚姻・夫婦・親子・養子等の表現はあるが、家族は見当たらない。法律用語辞典を開いたら、「改正前の民法においては、一家の構成員で戸主でないものをいった」と説明されていた。
「日本語 語感の辞典」という一風変わった辞典がある。普通の国語辞典は多くの筆者が分担して執筆しているが、この辞典は中村明著とあるとおり、1人で書いている。私は著者に敬意を表して、1200ページほどの辞書を始めから終わりまで1年以上かけて通読した。
家族の関連語として家庭・身内・近親・肉親・血縁・血族などを調べたが、定義が明瞭ではない。例えば、家族の説明に「夫婦とその子を中心として同じ家に住む一族」とあるが、単身赴任している夫は家族ではないのかと疑問が起こる。
広辞苑の家庭も「夫婦・親子など家族が一緒に生活する集まり」と解説されているが、別居していれば別家庭かと疑問に思う。
最近では「世帯」が使用されることが多い。昔の戸籍法では戸主が存在していたが、現在の住民基本台帳法では世帯主だ。
世帯は同居が原則で、別居していれば同一家族でも別世帯とされることが多い。市町村は人口とともに世帯数を発表している。家族だと思っていても別居していると別の世帯と数えられる。
ところが、国民健康保険では、親は桐生市に住んでいるが、息子は東京の大学に在学し、住民票は東京に移していても同一世帯として扱い、保険税は世帯主に課税する。親が国保の被保険者でなくても納税義務がある。
家族や世帯の定義は変わることがあるので要注意だ。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)