従軍慰安婦/辞書の読み方Ⅰ
長年日韓両国間の懸案だった従軍慰安婦の問題が妥結した。日本政府は韓国の基金に10億円を提供し、韓国政府はソウルの日本大使館前に民間が設置した従軍慰安婦を象徴する少女像を撤去するよう努力するとのことだ。
約束どおり実行されれば永久的解決となり両国民にとって誠に喜ばしいことだ。
従軍慰安婦の連行は日本軍が関与したと朝日新聞が報道したのに関し、それを否定し、民間業者が募集し、軍は関与していないとする説が起こり、読売新聞や産経新聞と朝日新聞とが長年対立した。
朝日の根拠となった吉田調書の裏付け取材が不十分だったことが判明し、朝日は紙面で謝罪し、社長が辞職した。
私は従軍慰安婦の存在は韓国だけではなく、他の植民地や占領地でもあったのに、なぜ韓国だけ問題になるのだろうと疑問に思っていたので、広辞苑で調べてみた。
1991(平成3)年発行の4版までは、従軍慰安婦は立項されていない。1998(平成10)年発行の5版には「日中戦争・太平洋戦争中、日本軍によって将兵の性対象となることを強いられた女性。多くは強制連行された朝鮮人女性。」と記されている。
戦時中や終戦直後には従軍慰安婦という言葉は聞いたことがなかった。5版の朝鮮人女性は朝鮮半島の女性という意味で、北朝鮮と韓国という意味だろう。
2008(平成20)年発行の6版では「日中戦争・太平洋戦争期、日本軍によって将兵の性の対象となることを強いられた女性。植民地・占領地出身の女性も多く含まれたいた。」と私の疑問に答えてくれた表現だ。
「植民地・占領地出身の女性も」の表現は韓国やフィリピンはもちろん、国内の女性も含まれていることを言外に示しているのだろう。「が」ではなく「も」は微妙な表現だ。
辞書は版が違っても内容はほとんど同じと思っている読者が多い。しかし私は版が違えば別の本だと思っている。
広辞苑4版には太平洋戦争が14行にわたって説明されているが、最後に「戦争中日本では大東亜戦争と公称。」とあるのに対し、5版では「戦争中日本では大東亜戦争と公称。中国や東南アジア諸国を戦域に含む戦争であったことから、アジア太平洋戦争とも称。」と追加され16行の解説だ。
6版では「戦争中日本では太平洋戦争と公称。→アジア・太平洋戦争」と微妙に変化し、15行にまとめている。
また5版では「九月二日無条件降伏文書に調印。」だが、6版では「十五日の玉音放送を経て、九月二日無条件降伏文書に調印。」と玉音放送が追加されている。
広辞苑は改版の際、過去の表現が適切であったか否か、検討しているようだ。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)