動物とヒトとの寿命比較/数字は魔物だ
桐生が岡動物園で飼育されていたキリンが死んだ。本紙の報道によると、国内で飼育されているアミメキリンとしては最高齢の24歳9か月で、人間でいえば80歳を超える長寿だったとのことだ。
第11子の出産が死産で、その後間もなく衰弱死したという。
この記事を読んで、動物とヒトとの寿命比較について疑問が生じ違和感を抱いた。
キリンの24歳9か月が人の80歳を超える長寿に相当すると計算した根拠は不明だが、高齢化した人間の社会では、80歳は平均寿命程度で、長寿といえる年齢ではない。
死因は難産による衰弱死だ。人間社会で80歳を超えた女性が出産した話は聞いたことがない。ヒトは生殖(出産)年齢と寿命との間に2倍ほどの差があるが、飼育されたキリンはこの差が少なく、生殖できなくなったキリンは間もなく死ぬのだろう。
従って、「人間でいえば80歳を超える長寿」との表現は適切ではない。
物を比較するのは同じ条件であることが大切だ。異なる条件のものを比較するときは、換算に合理的な理由が必要となる。比較不可能なものを分かりやすくするために、無理に数字を並べて比較してはならない。
前述のキリンの死亡記事では、飼育されたキリンの平均生存期間は〇年〇ヶ月だと併記すれば長寿か短命化が分かる。
各種の統計で、日本と外国との比較や、経年変化のグラフが提示されることがあるが、用語の定義や調査の方法等の異同を無視して、単純に比較すると、大きな過ちを犯すことになりかねない。
統計を作成したり発表する側は、常にこれを念頭におき、より正確な分かりやすい資料を提供してもらいたい。
GDP(国内総生産)の計算方法が変わり、従来より増加するとのことだが、これを知らずに、数字を単純に前年と比較して、政府の経済政策が成功したと誤解してはならない。
数字は魔物だ。だまされぬよう要注意だ。
1人当たりのGDP・1人当たりの県(市)民所得に自分の家族数を掛けた数と、自分の年間所得とを比較する人がいるが、市民所得は個人の所得だけではなく、企業の所得も合算されている。
本紙の県民所得統計の記事には、必ずその旨注記されている。
将来の人口予測や希望出生率は甘いと批評する専門家もいる。
少ない年金生活で苦労している市民も多いと想像するが、振り込め詐欺で数百万円搾取されたとの新聞報道を見ると、案外金を持っているのだなあと驚くこともある。
統計や数字の解釈はホントにむずかしい。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)