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桐生タイムスより

戸/誰も疑問に思わない

 先日の本紙の記事によると、来年4月に桐生市は馬立(梅田町)と黒保根の簡易水道を廃止して桐生市の上下水道に統合し、一元化して運営するとのことだ。
 その記事の最後に「今年3月末現在の給水人口(戸)は、上水道が11万5442人(10万3720戸)、馬立簡易水道が59人(45戸)、黒保根簡易水道が1972人(941戸)」と記されている。
 桐生市上水道の給水人口は1戸当たり1.11人ということになる。桐生市は少子超高齢社会で、人口は減少しても世帯数は逆に増え、単身の老人が増えているが、1世帯当たり、1.11人とは思えない。
 水道局の統計で「戸」の定義はどうなっているのだろうと疑問に思った。
 青森県と岩手県には八戸のように戸のつく地名が多い。一戸から九戸まであるようだ。
 古語辞典によると戸は竈の意だ。かまどはへっついともいう。私は神戸市の出身だが、こどもの頃、母は「へっついさん」で毎朝ごはんを炊いていた。
 縄文時代は井戸とともに「へつい」を共同で使用していたのだろう。戸は集落という意味だった。
 時代とともに戸の定義は変化したが、現在では戸籍や戸建て・戸口などのように、人口に対する世帯、建物については軒の意味で使われている。
 新聞社に電話で尋ねた。記事を書いた記者は不在で、真相は不明だが、メーターの数ではないかという。私も量水器の数、すなわち契約口数だと想像していた。
 次に水道局に電話したら、調べて回答するとのことで、1時間ほど後に電話があった。
 それによると、10万3720戸は誤りで、正しくは5万2618戸だとのことだ。集計作業で過ったという。
 もう一度新聞を読み直すと、記事は水道局を直接取材したのではなく、市議会に報告された資料に基づいて書いたものだ。
 市議会では水道局の資料の誤りに誰も気付かず、報告を承認したらしい。
 85歳の老人が一見して疑問に思ったことを22もいる市議会議員が誰も疑問に思わないのは不思議だ。
 市から提出される資料は正しいという先入観があり、常識的な疑問を抱かず、質問しないだろうか。
 市が提出する資料が常に正確で、すべての政策や議案が市民のためになるのなら、市議会は存在意義がない。
 市民の立場に立って、議案を審議し、質問権を行使することが市議会議員の職責だ。
 誤りの数字を気付かずに議会に提出した水道局に責任があることは言うまでもないが、議会も真剣に謙虚に反省してもらいたい。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

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