暦と時間感覚/救われている面もある
現在の太陽暦では、およそ4年に一回閏年があり、1年が平年より一日多く、2月が29日ある。およそと記したのは、400年に3回、4で割り切れる年であっても、400で割り切れない年は平年だからだ。
すなわち2000年は閏年、2100年、2200年、2300年は平年である。うるうは潤と書き誤ったのがもとで閏と記すようになったらしい。おまけの意味だ。今年は閏秒を挿入して平年より1秒長くなる。
太陰暦(旧暦)は1年が354日なので適当な割合で閏月を設け、1年を13ヶ月とした。旧暦は明治5(1872)年12月2日までで、その翌日を新暦(太陽暦)の明治6年1月1日と定めた。
日常生活に重大な影響を及ぼす暦を、新政府はなぜ急いで一方的に変更したのか、その理由は諸説あるが、明治5年が閏年で13ヶ月あったためらしい。すなわち、明治5年は12月の次に閏12月があったので、財政困難な政府は1ヶ月分の余計な給料を官吏に支払えなかった。2日分は「武士は食わねど高楊子」とカットした。
下級公務員は当時すでに月給制になっていたが、上級公務員の参議(大臣)は藩政時代の年棒制のままで、実質的には一年が短くなり、ベースアップだった。結果的には徳政令を発令したような格好となった。旧暦時代の人は13ヶ月もある閏年を長く感じただろう。
ところで、年を取ると1日が短くなるという人が多い。こどもの頃は1日が長く、現役の時はそんなことを考えるゆとりがなく夢中で働いたが、定年を迎え退職して暇が生じると、かえって1日が短く感じられるという。
時間の感覚は、余生の年月に比例するとの説がある。若い時は余生が長いので時間が長いが、年を取り余生が短くなると、そのぶん時間を短く感じるという。分かったような分からないような話だ。
年を取ると運動機能が低下し、頭の回転も悪くなる。テレビの早押しクイズは、正解を知っていても回答できず、出演者に負けてしまう。高校生相手では絶対に勝てない。
歩行も遅くなり、歩行者専用の青信号の時間内に、道路を横断できないことがある。駅まで15分が30分もかかる。つまり一定の仕事をするのに要する時間が倍増するので、そのぶん時間が短く感じるようになる。
電話のベルに対応しようとしたが、電話機へ行くまでに切れてしまった。チャイムが鳴ったので玄関へ行ったが、待ちきれなかったのか、戸口には誰もいなかった。などは老人は誰でも経験している。
しかし、そのおかげでおれおれ詐欺や押し売りの被害から救われている面もある。人間万事塞翁が馬だ。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)