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桐生タイムスより

義務と権利/表裏一体

 義務と権利は親と子のように反対を示す対義語だが、紙の表裏のような関係の対語でもある。
 権利は反対側から見れば義務であり、義務は相手の権利となる。商品の売買を考えればよく分かる。売り手は商品を渡すと代金をもらう権利が生じ、逆に買い手は金を支払うと商品を受け取る権利を得る。
 憲法に記された国民の権利と義務は誰でも知っている。納税・勤労・教育の三大義務は学校でも習うが、第3章「国民の権利及び義務」と権利が先に記されていることに注目したい。
 小・中学校は義務教育とされているが、こどもが教育を受ける義務を負っているわけではない。親が子に教育を受けさせる義務を負っているのだ。また国や自治体が学校を設置する義務を負っているとも解釈できる。
 また27条には「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」とあるから、行政は失業者が出ないように働く場を提供しなければならない。
 納税を権利だと認識する人は少ない。毎年春は確定申告のシーズンだ。本来は、所得のある人はすべて確定申告の義務を負っているが、多くのサラリーマンは会社が代わりに年末調整をして所得税額を計算して納税してくれるので、所得税について関心が薄く計算法を知らない人もいる。
 源泉徴収は国にとっても都合のよい制度だ。給与の支払者に、労働者から源泉徴収して国に納入義務を課しているのだから、こんなうまい楽な制度はない。
 戦費を調達するために戦時中から始まったらしいが、当時の経営者は国のためとはいえ、手数料なしでの集金義務をよく納得したものだ。
 源泉徴収をしない国は日本がうらやましいだろう。
 所得税は直接税、消費税は間接税の代表とされるが、源泉所得税は事業主が納税義務者で、税の負担は勤労者だから、間接税に似ている。
 多額の医療費を支払った人は、確定申告で控除申請をすれば、税が還付される。しかし面倒がって申請しなければ、必要以上の税額を支払ったままで還付されない。
 すなわち、還付請求は権利で、行使しなければ還付されないだけで、義務をおっていないので、罰則はない。
 一方、2ヵ所以上から給与を受け取っている人は、確定申告の義務がある。多額を源泉徴収された人は申告によって還付されることがある。すなわち義務を行使した人は、自動的に権利を行使したことになる。
 まさに義務と権利が表裏一体だ。対象者は少ないが、味のある制度だ。
 公的年金生活の老人は税制上優遇されているが、自覚している人は少ない。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

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