料理の言葉/ニュアンスが異なるⅡ
料理は火を使うことが多いため、炊く・焼く・焙るのように火偏や煮るのように下に「灬(れっか)」がつく漢字が多い。炊くと焚くは類似語だが、前者は食べ物を煮る意味に用い、後者は火を燃やす場合に使われる。
炊くと煮るは同義語のようだが、ニュアンス(語感)に微妙な差がある。飯を炊くというが煮るとはいわない。雑煮を煮るが炊かない。粥は炊くのか煮るのか、地方により表現が異なるようだ。ご飯から作るときは炊く、米に多めの水を加えて作るときは煮ると使い分ける人もいる。
関東のおでんを関西では関東焚・関東炊・関東煮などという。雑煮・芋煮は焚や炊とは書かない。水分が多いのが煮で少ないのが炊のような気がするが、必ずしも断定はできない。
日本語語感の辞典の「炊く」の説明は興味深い。西日本には「お豆を炊く」「大根を炊く」などと米以外にも「煮る」意に使う用法が残っており、東京でも使う「水炊き」などの形にその名残がある。
この解説によると、奈良や京都に都があった昔は「炊く」が広く使用されていたが、東京弁が標準語とされ、ラジオやテレビで急速に普及し、地方語が方言として排除されるようになって、次第に炊くが煮るに変化したように解される。
お好み焼き・すき焼きのように鉄板を介して火を通す「焼く」があるが、焚火で直接芋を焼くこともある。
焼くは火と無関係のときにも用いられる。写真の焼き増し、コピーを焼く等だ。コピーをとる意味で「焼いてきてくれ」と指示された新入社員が焼却して叱られたとの話がある。焼き餅を焼くは嫉妬することで、「焼餅焼くとて手を焼くな」という諺は嫉妬は過ぎると自分に災いを招くことになるから、ほどほどにせよの意である。
焦がれるも、こげるという意味の他に、思いこがれるのような心の状態を示すことがある。
料理と調理は同義語のようだが、微妙なニュアンスの差がある。前者は食物をこしらえることの他に、でき上がったものをものを指す。フランス料理・一品料理がその例だ。後者は材料を整えて料理すること自体で、完成した食べ物には使えない。料理教室や料理番組はあるが調理に置き換えると据わりが悪い。
調理師・調理台のように職業人が客のために行うという語感で、社員食堂や学校給食の調理室を連想させる。
炊事場や台所は家庭の設備だが、3DKのような言葉が定着した現在では、キッチンのほうがなじみ深い人もいるだろう。
料理人のコックはオランダ語由来の外国語で、400年も昔の本が初見だそうだ。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)