ネズミの毒見/流通機構のおおらかさ
福島県産のリンゴが宅配便で送られてきたが、重くて持てないので玄関に置いたまま開封した。
翌日、別の部屋に運ぶようヘルパーさんに頼んだら、リンゴがネズミにかじられているという。そのリンゴを捨ててくれと話したら、かじられた部分を切り取ったら食べられると言って、皮をむいてくれた。
一瞬戸惑ったが、せっかくむいてくれたのだと思い直して食べた。大きなリンゴだったので、かなりの量でおいしかった。
先日、保存食品の焼きそばに、ゴキブリの一部と思われる異物が混入していて大騒ぎになり、メーカーは全商品を回収した。先年、中国製の冷凍ギョーザの殺虫剤混入で、国際問題になったこともある。現在では、異物混入は食品メーカーにとって致命傷になりかねない。
一方、商品の賞味期限が近付くと、陳列棚から撤去するスーパーもある。費用をかけて廃棄するそうだ。もったいないと思う。
放射能漏れによる風評被害で、農産物が売れず困っている産地がある。福島県産の農産物と、ネズミにかじられたリンゴと、どちらが健康により影響する可能性があるのかは知らないが、過度に心配しすぎるのも問題だ。
子育て中の若い人が心配するのは理解できるが、高齢になると気にならない。戦時中や終戦直後の食糧難の記憶が戻るのだろうか。
食物を食べ残して捨てることには罪悪感がある。老人対象の宴会では食物の量を減らしてほしい。
昔の藩主や将軍には毒見役がいて彼らは調理直後のおいしいものは食べられなかったらしい。権力者には暗殺や毒殺の可能性がつきまとった。朝廷は政治権力から遠ざかっていたので、天皇は島流しにされても暗殺からは免れた。
医学が進歩し環境が整備されて、食中毒が減少したのは喜ばしいが、商店が店の信用を保つため、賞味期限内の食品まで撤去して廃棄するのも問題だ。
夕方になると弁当を安売りするスーパーもあるが安売りを禁止する系列店もある。
わずかの年金や生活保護で暮らしているひともいるのだから、店の信用やイメージだけにとらわれず、おおらかな流通機構にならないのだろうか。GDP(国内総生産)にどういう影響を与えるのか。
医学・心理学・経済だけではなく、結局は政治の問題だと思うが、これを論ずると失脚するのか、先の総選挙ではどの候補者も政党も問題にしなかった。
リンゴをかじったネズミからは健康異常の報告はなく、毒見後の料理を食べる将軍の気持ちになった。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)