背景色の変更
  • 標準
  • 黄
  • 青
  • 黒
文字サイズ
  • 小
  • 中
  • 大
桐生タイムスより

差出人/記載のない郵便物

 差出人不明の郵便物が届くことがある。開封しないで破棄する人、受け取り拒否をする人もいる。受け取り拒否された郵便物は差出人に返送するのが原則だが、差出人不明では返送の仕様がない。郵便局で一定期間保管した後に廃棄される。
 郵便物は宛先を必ず記載しなければならないが、差出人は必須事項になっていないので、このようなことが起こりうる。封書の宛先は表に、差出人は裏面に記すのが普通だ。はがきは表に宛先と差出人とを記すことが多い。
 差出人を表ではなく、裏(通信)面に記載するはがきの典型は年賀はがきだ。日本国憲法21条で通信の秘密は保障されている。はがきの通信面を郵便局員は読んではならないので、郵便局にとっては裏面に記された差出人は差出人不明の郵便物と同様だ。
 10年以上も昔のことだが、差出人の記載のない封書が届いた。不審に思いながら開封すると、「あの事を週刊誌にばらす。いやなら○○円送金しろ」との脅迫状だ。一瞬何のことだろうかと思ったが、警察に届けた。警察ははじめ事件として捜査を始めるのをためらったが、私が具体的な方法まで示して要請し、手始めに私の指紋を取ってほしいと両手を差し出したので、捜査を開始してくれた。犯人は群馬県医師会員名簿を悪用したようだ。県医師会やマスコミにも連絡し、万全の態勢で臨んだ。犯人はあっけなく逮捕され、裁判で有罪が確定した。
 被害者を一人も出さず、犯人は費用をかけたが、1円も回収できず、同様の犯罪は以後県内では起こらなかった。現在のおれおれ詐欺や振り込め詐欺、警察のいう特殊詐欺の走りだ。
 これらの詐欺は、警察の努力や金融機関・タクシー会社の協力にもかかわらず、容易に根絶しない。だまされる側にも問題があるとの意見もあるが、犯人の話術が巧みで、高齢者が狙われる。私は絶対だまされないと思っている人ほど、だまされやすいとの説さえある。
 金がなければだまされないはずだが、サラ金から借りて犯人側に渡す人もいるとのことだ。キャッシュカードや携帯電話を廃止すれば犯罪は減少するだろうが、現実の問題としては不可能だろう。
 防犯は犯人との知恵くらべだ。諸外国の事情はどうなのだろう。
 差出人のない郵便物と特殊詐欺とは、無関係のようだが、私は大いに関係があると思っている。
 郵便の諸規則を改正して、差出人記載のない郵便物を禁止することが、防犯の第一歩ではなかろうか。
 郵便制度が始まった明治時代は電話もコンピューターもなく、現在とは社会情勢が全く異なるのだ。犯人の検挙にまさる防犯なし。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

このページの先頭へ