死亡/表現のいろいろ
豚流行性下痢症が30頭発症し、7頭が死亡したという新聞記事を読んで違和感が生じた。
私の国語感覚では死亡とは人が死ぬことであり、家畜が死ぬのは死亡とはいわないからだ。発表元の家畜保健衛生所が「死亡」と発表したのか、新聞社が死亡と表現したのか、疑問に思い、手元の辞書を調べた。
9冊のうち5冊が死亡を「死ぬこと」としているのに対し、4冊は「人が死ぬこと」と記している。「人や動物が死ぬこと」と説明している辞書は見当たらない。
9冊の他に日本語語感の辞書という一風変わった辞書の死亡の項には「死ぬ意で、主として改まった文章に用いる漢語」と解説したあとに38もの同義語が記されている。
敢え無くなる・上がる・あの世に行く・息が切れる・息が絶える・息を引き取る・往く・いけなくなる・永眠・往生・お隠れになる・落ちる・おめでたくなる・帰らぬ人となる・くたばる・死去・死ぬ・昇天・逝去・斃れる・他界・長逝・露と消える・天に召される・亡くなる・儚くなる・不帰の客となる・不幸がある・崩御・没する・仏になる・身罷る・脈が上がる・空しくなる・落屑となる・逝く・臨死・臨終
これらの同義語はいずれも人の死を意味し、動物の死は含まれていない。
これに対し、死体・屍体はどの辞書も人や動物の死骸と記し、動物を含めている。
中でも大辞泉は、死体・屍体を死んだ人間・動物のからだと記すだけではなく、次のように詳しく説明している。
「死体」「死骸」「しかばね」には肉体を物としてみている語感があり、人格を認めた表現にはふつう「遺体」「なきがら」などを用いる。
新聞の死亡広告では死去を用いることが多く、記事では死去または逝去と表現することがおおい。逝去は死去の尊敬語で他人の死に使用するが、まれに親族の死に用いる例もある。
戦前は、天皇・皇后・皇太后などの死去を敬って崩御・その他の後続の死去を薨去や薨御などと表現したが、現在のマスコミは身分による区別をせずに「ご逝去」と表現するようだ。
ペットを人間同様にかわいがる人もいる。昔は話し言葉としては動物に餌をやる、書き言葉では与えると表現したが、現在では「餌をあげる」が普通らしい。
なかには「犬にご飯をあげる」「猫の食事を用意する」という人もいるようだ。ペットが死ぬと、火葬場で焼いてもらい、墓を立て、命日にはお参りする人もいるという。
しかし、人の遺体と動物の死体とは、同じ炉や窯は使用しないとのことだ。