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桐生タイムスより

長谷をハセ、近江をオウミと読む理由/念のため

 半年余り前の当欄「地名・人名」の最後に、長谷をなぜハセと読むのかとクイズを出題し、ヒントは奈良時代と記したまま、正解を示さなかった。今回はその解説である。
 奈良県桜井市の初瀬山の麓に初瀬川が流れ、下流は大和川となっている。初瀬山の中腹には真言宗の古刹長谷寺がある。初瀬は最初、文字どおりハツセと読まれていたが、後に促音便でハッセとなり、さらにハセに変化した。現在の地名はハセである。
 長谷寺はチョウコクジと音読みされていたが、ハセヤマの中腹にあるので、地名をとってハセデラと呼ばれるようになった。桐生市小曽根町にある市立西幼稚園を、地元民が小曽根幼稚園と呼ぶのと同様である。
 長谷寺は飛鳥時代、天武天皇の病気平癒を願って、朱鳥元(686)年建立された由緒ある寺院で、現在は桜と牡丹の名所である。古来、多くの和歌や俳句に詠まれている。
 この寺の観音像は広く民衆に信仰され、初瀬詣でが流行した。現在の伊勢参りの原形だ。
 奈良時代聖武天皇の御代になって、現在の鎌倉市長谷に、大和の長谷寺本尊と同じ木から彫られた観音を祭る長谷寺が建立された。その土地を長谷という。すなわち寺の名が先である。
 長谷の地名は各地に広がり、長谷寺も多数存在する。ハセデラと言ったり、チョウコクジと呼んだりする。
 長谷の地名は長野・神奈川・兵庫・福岡・大分・鹿児島の県に見られ、長谷川は福島・岐阜・和歌山の県に流れる。
 名字の長谷や長谷川も全国に広がり、誰でも読めるようになった。
 次に、近江をなぜオウミと読むのか考えてみよう。近江は滋賀県の旧国名であるが、名字としても見られる。
 琵琶湖はわが国最大の淡水湖で、京に近いので昔は近っ淡海と呼ばれ、近江の漢字が当てられた。江は入江・湾の意だ。
 これに対し、東海道の浜名湖は京から遠いので遠っ淡海と呼ばれ、遠江の漢字が当てられた。浜名湖は、今では遠州灘に通じている汽水湖だが、昔は海とは隔絶された淡水湖だった。
 遠江は遠州と略称され、広沢虎造の浪曲清水次郎長伝の一節「森の石松」で有名だ。
 淡海は海水を含まない淡水湖だが、塩分を含んだ湖は潮海という。湖は水海の意で、淡水の海である。
 海は本来は水をたたえた所で、古くは海原の他、池や湖も含んで海と言った。現在でも「殺人現場は血の海だった」と表現する。
 以上の説明は、私が独自に調べて想像しただけで、定説として存在しているわけではない。念のため。
 (1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

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