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桐生タイムスより

産学官/市は官なのだろうか

 桐生市の庁舎(市役所)の3階に産学官推進室がある。推進室といっても特別な部屋はなく、他の課と同様、通路から見渡せる一角にあり、市の組織の名称だ。課と係の中間のような感じだ。
 何を推進するのか、目的語のない奇妙な名称だが、3者の連携を推進するのだろう。
 産は産業界・学は大学・官は桐生市の意味らしいが、市は官なのだろうか。
 産学協同は戦後間もなく使われだした言葉で、平成元(1989)年発行の日本語大辞典には次のように説明されている。
 産業界と大学が緊密な関係をもつことによって、技術開発や技術者養成の効果をあげようとすること。university―industry
cooperation
 日本語では産学だが、英語では学産と順序が逆転しているのが興味深い。産学官は掲載されていない。
 産学官が立項されているのは、広辞苑では平成20(2008)年発行の6版からで、平成10(1998)年の5版には産学協同はあるが産学官は未掲載である。
 6版の産学官の説明は以下のとおりだ。
 産業界と学界と官庁との三者。
 また6版の官庁の説明には国家機関とある。
 すなわち官は政府であって、地方公共団体の県や市町村は官ではない。
 「勝てば官軍」という諺があるが、官軍とは政府軍であり、藩の軍隊は「負ければ賊軍」だ。
 群馬大学医学部の前身は前橋医専だが、設立当時の正式名称は官立前橋醫學專門學校だ。現在、国立大学は独立行政法人となったが、受験界では大学は国公立と私立とに二分されている。昔の官立は国立の意味で、県立の大学は官立とはいわなかった。
 また、官吏は現在の国家公務員で、地方公務員は公吏と称した。
 中央官庁の総務省や環境省が産学官連携を唱えるのはよいが、それをそのまま真似て、市が産学官と表現するのはいかがなものか。食材偽装の食品を連想する。
 最近の観光客は目が肥えていて、本物志向の人が多い。市民だけではなく、観光客も対象に10月から低速電気バスが無料で市内を巡回している。
 客が乗車していなくても、市民に対する宣伝もあり、時速30kmで走っている。後に続く車が渋滞しないよう配慮しながら走行する。
 このバスは群馬大学理工学部・市内の産業界と市当局の3者が協力して完成したもので、各地に貸し出した実績もある。
 産学市を産学官と呼称するようでは、本物志向の人たちから偽称ではないかと疑問視されかねない。
 (1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

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