背景色の変更
  • 標準
  • 黄
  • 青
  • 黒
文字サイズ
  • 小
  • 中
  • 大
桐生タイムスより

お通し/契約社会の視点から

バーや料理屋・居酒屋でアルコール飲料を注文すると、注文しない「お通し」が最初に出てくる。簡単な料理とはいえ、無料のサービス品ではなく、有料の商品だ。
 ほとんどの客は、やぼな苦情は言わず、料金を支払うが、中には理屈っぽい客がいて、トラブルになることがある。
 メニューや壁に価格の表示がないことが多いので、もめるとその解決はやっかいだ。
 お通しは、客が注文しなくても眼前に突き出されるので「突き出し」ともいう。
 通しとは何を通すのかと疑問に思い、広辞苑を調べると
 (注文の品を帳場に通したしるしの意)
 料理屋で、客の注文した料理ができる前に出す簡単な食品。お通し。
 と解説されている。
 テレビの時代劇で居酒屋のシーンを見ると、お通しは映っていない。念のためことわざ辞典を調べても通しのことわざはない。
 お通しの商習慣は意外におそく、戦後に始まったのではなかろうか。
 個人の習慣は人の生活に影響を及ぼすが、世間の慣習からも逃れられない。
 客が注文しないのに、値段を示さず、有料で提供されるお通しは、考えてみると奇妙な商習慣だ。
 ファミリーレストランや食堂では、店員が注文を聞きに来るとき、水や茶を持って来るが、これは無料だ。1杯目は有料のコーヒーが、2杯目からは無料の店さえある。なぜお通しは有料なのだろう。
 店と客とのトラブルを避けるには、酒類を注文するとき、客が「お通しは要らない」とはっきり断れば、店も強制はしないだろう。
 現在は、客が暗黙の了解をしたと推定して営業しているが、店側は注文を受けるとき、「お通しをお持ちしてもよいですか」と客の意向を確認するような商習慣が望ましい。メニューにお通しの価格の表示があれば、なおよい。現在は、飲酒する客にとっては、一種の席料のような感じだ。
 いずれにしても、せっかく気分よく飲もうと訪れる客と、お通しの料金でもめるのは商売としては最低だ。
 2020年には東京オリンピックが開催されるが、「おもてなし」の精神で選手や観戦する客を迎えるという。
 契約社会の欧米からの観光客が、注文しない有料の料理「お通し」を、違和感なく受け入れてくれるだろうか。

 (1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

このページの先頭へ