擬制世帯/分かりやすい言葉を
擬制世帯という言葉を初めて見聞する人が多いだろう。桐生市は国民健康保険の該当世帯の被保険者証に、何の解説もなく、擬制世帯という用語を記して郵送した。
擬の旁が疑のため、犯罪の容疑者扱いをされたような気持ちになり、不安になった被保険者が、私に助けを求めてきた。
辞書の擬制の解説を読んでも、法律用語で、日常語ではないので分かりにくい。
法律用語辞典には次のように解説されている。
ぎせい〔擬制〕一定の法律的取扱いにおいて、本質の異なるものを同一のものとみなして同一の効果を与えること。失踪宣告を受けた者を死亡したものとみなし(民31)、窃盗罪について電気を財物とみなす(刑245)などがその例。立法技術上、法文の簡略化を目的として行われる例が多いが、学問上の用語として用いられることもある(例えば、法人擬制説)。→推定、看做す
この解説を読んでも、平素六法全書に縁のない人にはまだ分かりにくい。国保の被保険者証の実際について説明すれば、擬制世帯の内容が理解できるだろう。
国保の保険税(料)の支払い義務者は加入者(被保険者)ではなく世帯主だ。世帯主(親)と子が共に国保の加入者なら当然世帯主が支払い義務者だ。世帯主が国保加入者ではなく、健保の加入者で、子だけが国保の加入者であっても、支払い義務者は世帯主だ。
しかし、世帯主が高齢となり、後期高齢者医療の対象者になれば、世帯主変更の届け出がなくても子が支払い義務者となる。このような状態を擬制世帯と呼んでいる。
みなし世帯(主)といえば分かりやすい。
税法には「みなし規定」が多く存在し、擬制よりなじんだ言葉だろう。
国民健康保険法の条文には擬制世帯は見当たらないが、厚生労働省の通達文にあるのだろう。そのため末端の市町村国保の被保険者証に擬制世帯という用語が記されるのだろう。
話は変わるが、75歳以上の人が加入する後期高齢者医療が発足するとき、「後期」という言葉が批判の対象となり、マスコミで連日取り上げられた。人生の末期を連想する高齢者が多かったのだろう。
福田総理大臣が「長寿者医療」と助け舟を出してもこの言葉は定着しなかった。老人パワーというか、マスコミの影響力には驚いた。
しかし、この騒ぎは間もなく収まり、今では後期高齢者が普及し、誰も異論をとなえない。
正しい日本語でも理解困難な言葉ではなく、誰にも分かりやすい言葉を被保険者証に記してほしい。群馬県の担当課にも提案し、変更するよう、桐生市は努力してもらいたい。
(1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)