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桐生タイムスより

介護保険/「バイタルチェック」の間違い

介護は今では誰でも知っているが、比較的新しい言葉で、昭和51年12月発行の広辞苑第2版補訂版には掲載されず、昭和58年12月の第3版が初出で、「病人などを介抱し看護すること」と説明されている。
 厚生省(当時)が日本看護協会に配慮して作った言葉とされる。
 介護保険は平成12年4月から実施された社会保障・福祉事業だが、現在では医療保険と並ぶ老人支援組織である。
 介護を受ける受給者は原則として65歳以上の老人だが、保険料は40歳以上の医療保険加入者が納める。
 老人福祉法では、老人ホームへの入所は市町村の措置であるのに対し、介護保険では介護施設への入所は、入所者と施設との契約である。そのため、入所はもとより在宅で各種のサービスを受けるのも、多くの書類に目を通し、内容を理解した上で、契約の意思表示のため署名押印が必要となる。
 しかし、現実は理解力が低下し、判断力が鈍った老人だから、言われるままに署名押印することが多い。
 個人的に家政婦を依頼するのと異なり、介護保険は国の制度であるので、不正防止のため、事務処理が膨大となり、費用もかかり直接介護に携わる人の待遇が改善されず、離職する人が多くなり、現場は常に人手不足に悩んでいる。
 介護保険は老人が対象者だから、老人でも理解できる言葉で話しかけるべきである。ところが、介護保険法にはサービス・リハビリテーション・ホーム・デイサービスセンター・アルツハイマー病・センターと6個もカタカナ表記の外来語がある。特にサービスは数百回も使われている。
 医療保険ではサービスの1個だけだ。
 介護の現場では「入浴前にバイタルチェックを行います」のように使われるが、お年寄りは理解できないまま「はい」と答えている。
 バイタルはラテン語由来の英語で生命の意味だ。ビタミン(Vitamin)は英語風に発音するとバイタミンだ。
 これは救急医療で使用される医学用語だ。意識不明の重症患者が搬送されると、医師が真っ先にするのは患者が生きているのか、死んでいるのかを鑑別診断することである。
 そのために呼吸・心拍・体温・血圧・瞳孔反応などのバイタルサインをチェックするのが、バイタル・サイン・チェック略してバイタルチェックだ。
 カタカナ表記の専門用語は医療従事者間だけで使用するもので、部外者にまで用いるのは間違いだ。
 「これからお風呂に入ります。その前に、ふだんと変わりないかどうか、お一人ずつ確かめるために、脈をとったり血圧を測ったりします」と老人にも分かる言葉で話すべきだ。
Ars longa,vita brevis
Hippokrates
 (1930年生まれ。桐生市堤町二丁目)

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