成年後見制度/帰り道がない
先日、成年後見制度の勉強会に参加した。胃がんの手術後初めての勉強会で、健康を回復し社会復帰ができたと自覚し、有意義な会だった。
前半は認知症の老人がだまされた実例に基づく講談3話、後半は大学の先生による講演で、おのおの1時間の説明で、有益な話だ。
しかし、翌日の新聞を読んで驚いた。ダウン症の50歳の知的障がい者が、平成19(2007)年に父が後見人になったら、選挙権がなくなり、「もう一度、お父さんとお母さんと一緒に選挙に行きたいです」と国を訴えた裁判が結審し、3月中旬判決があるとのことだ。
同様の裁判は全国各地であり、東京地裁の判決が初めてになるという。
前日の2時間に及ぶ解説では、後見人をつけたら選挙権が消失するということには全く触れていない。
参政権は憲法に規定された基本的人権である。国民の義務として納税・教育・勤労の3つが挙げられているが、滞納者でも義務教育を受けなかった人でも、無職の人でも、20歳以上の国民には男・女の別なく、すべての人に選挙権が与えられている。
犯罪者でさえ刑の執行が終われば選挙権が回復する。
成年後見制度の窓口で、講演会の担当課でもある桐生市長寿支援課に電話で質問した。
成年後見の相談に来た市民に、選挙権が消失することを正しく説明しているかとの質問に対し、3人も変わった後にやっと説明しているとの回答をえた。
成年後見をやめたら選挙権は回復するのかとの問いに対しては、成年後見はいったん始めたら後見人を変更することはあっても、やめることは想定されておらず、死ぬまで続くという。まるで三途の川の渡しのようで、帰り道はないとの説明だ。
念のため桐生市選挙管理委員会事務局(総務課選挙係)にも同様の質問をした。
家庭裁判所は成年被後見人の本籍地に通知し、本籍地では戸籍に記載した上で、住所地に通知する。それに基づき、選挙人名簿から抹消する。後見人をやめて、選挙権が回復した実例は知らない。法定後見制度は知っているが、任意後見制度は知らないとの回答だ。
この制度は介護保険と同時に発足し、厚生労働省が所管している。私は法務省所管かと思っていたが、そうではないようだ。
基本的人権にかかわる重大な選挙権剥奪を公職選挙法でなぜ容認しているのだろう。憲法違反だと国が訴えられるのは無理もない。
私は有権者となってから60年余り、一度も棄権したことはない。お迎えが来たら静かに彼岸へ旅立とうと思っていたが、最高裁判所まで続くであろうこの裁判の決着を確認するまで、祖国を脱出しないよう決心した。